大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和43年(ワ)5523号 判決

原告 有限会社昌弘社

右代表者代表取締役 土肥重信

右訴訟代理人弁護士 高桑瀞

同 高桑幸子

被告 地引徳一

〈ほか三名〉

右四名訴訟代理人弁護士 手塚敏夫

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一、原告は、「被告らは、原告に対し、原告所有の東京都文京区関口一丁目二〇七番三、宅地一六五・二八平方メートルの土地から公道に通ずる別紙図面(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)、(イ)の各点を順次結んだ幅員四メートルの道路につき、原告が通行権を有することを確認する。被告地引徳一は、別紙図面表示(A)の建物部分および同(B)のブロック塀を、被告岡村浅太郎は同(C)の建物部分を、被告佐生政雄は同(D)の建物部分およびブロック塀をそれぞれ収去し、かつ、右被告らは前記土地を原告が通行することを妨害してはならない。」との判決を求め、その請求の原因を次のとおり述べた。

1、原告は、東京都文京区関口一丁目二〇七番三、宅地一六五・二八平方メートル(以下本件土地という)の所有者である。

2、被告地引徳一は、本件土地を含む二四七坪四九の土地(当時の表示は東京都文京区関口水道町七番地一)の所有者であったが、本件土地を分筆のうえ訴外清水秀太郎に譲渡し、同年五月二二日右訴外人のため所有権移転登記手続がなされ、その結果本件土地は袋地となった。

3、被告地引徳一は、本件土地より公道に至るまで別紙図面(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)、(イ)の各点を順次結んだ線で囲まれた幅員四メートルの道路(以下本件通路という)を開設し、関係土地所有権者および使用権者等の承諾を得て、昭和二七年五月二八日東京都知事に道路位置指定の申請をなし、同年六月二七日東京都知事よりこれが道路指定がなされた。

4、右道路指定に際し、被告地引徳一は、右幅員四メートルの指定道路上に同被告所有の建築物が若干はみ出していたので、改築の際これを道路指定線まで後退させることを確約した。

5、原告は、本件土地を、その地上建物とともに、昭和三一年一〇月三一日に清水秀太郎より買受けて所有権を取得し、訴外小嶋政夫名義を経由して、昭和三八年七月一九日所有権移転登記手続を完了した。

6、被告地引徳一は、本件土地を分割した残余の土地一九七坪四九を、昭和三四年五月二五日ころ、(イ)東京都文京区関口一丁目二七〇番四、宅地四五坪〇九、(ロ)右同番五、宅地八五坪二二、(ハ)右同番一、宅地六七坪一八に三分割し、右(イ)の土地を訴外黒田敏郎に、右(ロ)の土地を被告佐生正雄に、右(ハ)の土地を被告地引啓子にそれぞれ売却した。

7、被告地引徳一、同岡村浅太郎、同佐生正雄は、いずれも、別紙図面(A)、(B)、(C)、(D)記載のとおり本件通路上に建物あるいはブロック塀を所有している。

8、よって、原告は被告らに対し、本件通路の通行権確認と被告地引啓子を除くその余の被告らに右建物およびブロック塀の除去ならびに本件通路の通行妨害の禁止を求める。

二、被告らは主文同旨の判決を求め、答弁として次のとおり述べた。

1、原告主張の請求原因第1、2項各記載の事実は認める。

2、同第3、4項各記載の事実は否認する。

3、同第5項記載の事実中、原告主張のような登記の存する事実は認めるが、その余の事実は否認する。

4、同第7項記載の事実は認める。

(証拠)≪省略≫

理由

一、原告主張の請求原因第1、2項および同第7項各記載の事実は当事間に争いがなく、同第6項記載の事実は被告らにおいて明らかに争わないから自白したものとみなす。

二、≪証拠省略≫を綜合すると、原告は、昭和三一年一〇月三一日に、本件土地を清水秀次郎から買受けて所有権を取得したことを認めることができ、右認定に反する証拠はない(なお、この点に関する所有権移転登記に関する原告主張の事実については当事間に争いがない)。

三、≪証拠省略≫によれば、別紙図面表示(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)、(イ)の各点を順次結んだ線で囲まれた部分の土地が、昭和二七年六月二七日に東京都知事から道路位置の指定を受けたことを認めることができるが、道路位置の指定によっては道路が成立する訳もなく、また関係土地所有権に何ら影響を及ぼすものでないことは当然であるから、道路の位置指定があったことを理由として、右土地に通行権がある旨の原告の主張は採用の限りでない(≪証拠省略≫によれば、右道路位置指定の申請は、当時本件土地の所有者であった清水秀次郎が、袋地である本件土地に建物を建築するため――建築基準法の確認を得るため――右土地を道路とすることについて被告地引徳一ら関係者の承諾を得ることなく申請をしたものであることが認められる)。

四、また、原告は、被告地引徳一が、道路指定線まで建造物を後退させることを確約した旨主張するが、このような事実を認定できる証拠はない。

五、ところで、本件土地は袋地であって、≪証拠省略≫によれば、本件土地から公道に至る通路の現況は別紙図面表示のとおりであって、最大四メートル、最小約二メートルの幅員のあることが認められ、≪証拠省略≫によれば、現在、これを徒歩で通行することは勿論、オートバイ、軽四輪自動車、リヤカーの通行も可能であることが認められるのであるから、いわゆる袋地通行権としてはこれで十分であるものといわなければならない(原告代表者本人尋問の結果によれば、原告は本件土地で印刷業を営み、そのため大型トラックの通行を必要としているように窺えるが、袋地通行権としそこまでの権利を認めることは必要ないものと解される)。

そうして、被告らが右通路を、原告が右認定のとおり通行することを妨害していることを認定できる証拠はないから、現状の通路の限度における通行権の確認も、これを求める利益が存しない。

六、以上説示のとおり、原告の被告らに対する本訴請求はすべて理由がないからこれを棄却することとし、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 定塚孝司)

〈以下省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例